ショートショートなのに、本当にあった話だ。そして、情けない話だ。
綺麗な髪の女性がカウンターの横に座っていたので、声をかけた。
少しだけ茶色のメッシュの入った髪で隠れて見えなかった横顔をこちらに向けた。可愛いというよりシャープな美人の顔をしていた。
なに?
ー待ち合わせ?
いいえ。お酒を一人で飲んでるの。
ーそう、僕と同じだね。
ふーん。ちょっとしたナンパ?
ーそうかもしれない。
こっちがナンパしているのかもしれないよ。
ー美人局かい?
どうかしら。
ーもし、そうだとしたら、君の男の人は、どんな感じの人なんだろうね。
とても怖いおにいさんということかしら?
ーいや、カッコいい人かどうかって、いうところかな。
自分に自信があるのね?
ーいや。ちょっとだけ、今日が面白くなかったっていうところかな。
ふーん。それで、私に声をかけたの?
ーまあ。そうとも言えるかな。
沈みかけの人に手は貸したくはないわね。
ーやはり、そう見えるかな。
やつれて疲れているけど、死にそうにはみえないわ。
ーあまり眠っていないからね。というより、眠れないか。
仕事?賭け事に負けた?女?それはないか。
ーボンボン、来るねぇ。興味を持った?俺に。
まさか。
ーなかなか思うように書けなくてね。
作家さん。そうか。その雰囲気は。髪の毛はとかしてないし。眼鏡も丸眼鏡。
ーそうだとしたら。
狙い的には、古い詐欺師のパターンね。昔流行った犯罪者。女はインテリに弱いとか?
ーまだ、そこにいるの。貴方は。
注意は大事よ。危険は危ないからね。
ー松田優作かい?
古いはねぇ。意外と。
ーどちらにせよ。時間はたくさんあるけれど、書ける内容が全くない。
そこで、お酒を飲む。それも、ブラントンをロックで。
私を見つけたことで、ちょっとした作品を作ってみてよ。
ー人はどちらにせよ、確実に誰か別の異性と出会う。それは運命か否か。コンセプトはそこ。
ー多くの異性と出会う人もいれば、異性と出会うことが少ない人もいる。
ーこの古典的な前提を書く。実は運命的なところの話は、何故か、近頃あまりない。
面白くないわね。出会う人は最初から決まっているのよ。ただ、それだけ。
それじゃあ。私の出会った男を想像して、作ってみて。私の向こう側を小説にして。
ー面白くない男か男達だ。多分、外見に目のくらむ単純な男だろう。
全然、面白くもなんともない出だしね。前に進まない。
私はね。そういう時に、逆に、とても凄い男の話を作ってくれる人を待っているの。
貴方は多分小説家でもないし。ナンパ師でもない。美容師でもない。
何故なら。貴方は感情に左右されている。自分の枠を超えられない。
ーちっぽけな男。というわけか。
そうね。自分を捨てられない限り、ろくな文章は書けないわね。
ー嘘つきにはなれない。
嘘つきでないと、モノは書けないわね。残念ね。独りでお酒を飲むのがお似合いよ。
くだらない話をただただ書き続けた男がいるわ。一度読んでみるといいわ。
コメント