大市民を読み解く②:柳沢きみお

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人生

前回、柳沢きみおの漫画『大市民』シリーズについて、全体像というか、その漫画の総論的なことに触れた。今回は、そこに出てくるエッセンスである人生論的なことについて、触れておきたいと思う。

男のこだわり

この漫画の面白いところは、衣食住をベースに、人生にまつわるありとあらゆることを作者柳沢きみおの分身である山形鐘一郎に男のダンディズムを語らせていくことにある。そして、そこには、厳然とした、男のこだわりの生き方がある。そして、中年から老年になり死に向かっていくところまでを記載している。

車へのこだわり

山形鐘一郎の愛車は、トライアンフTR3Aである。俺は、この漫画に出逢った頃、柳沢きみおがこの車を漫画に出してきたことに感銘を受けたのであった。当時、俺は、国立のたまらん坂の手前にあるナカナカ素敵なバーに入り浸っていたのであった。その名も、「ろくでなし」。その店を経営していたのは、40歳近い眼鏡をかけた細く痩せぎすの優しそうな人であった。自分の行っていた大学の先輩で大学を出た後スペインで絵の修行をして帰って来てからこの店を始めたようなことを聞いたことはあった。

その人が運転していたのが、この、白のトライアンフTR3Aであったのだ。助手席に乗せてもらったことがあるが、その車体の低さに驚いたことがある。俺のジーパンの裾がちぎれてしまうのではないかと思えるほど、走り出すと、地面すれすれを走っていく感じがするのである。その時も、古い中古車であったはずだ。エンジン音も振動を感じさせるほど震えていた。なるほど、画家崩れはこういう英車に乗るんだ。芸術家なんだなと勝手に思ったことがある。それから、多くの国産車や外国車に乗ってきたが、あの時ほどたった1回で感動したことは一度もなかった。トライアンフ社はバイクで有名なところであるが、スポーツカーも作っていたのだ。

この車と出会ったことで、俺は、その後、多くの面倒くさい外国車を購入し乗り何度も故障し大変な目にもあったが、その都度に、車と友達になれることはこういうことなんじゃないかなと思ったこともあったのだ。

『大市民』の山形鐘一郎が、中年になったら男は昔の英国車に乗るべきであると蘊蓄というかこだわりを示すのは、こんなところにあったのだろう。

山形鐘一郎はノタマウ。車の深い味わいを知ることができる。ベンツやBMWじゃあ、車とお友達にはなれない。古い英国車の味わいを知るということは人生の深みを知るということなのじゃ。

45歳なんていうのはまだまだ若い。青年期なのだ。40歳まではガキさ。世の中のことなんて、なーんにも分かっていない。50過ぎて、やっと大人の仲間入りだ。80からさ、老人と呼ばれていいのは。

食と酒へのこだわり

山形鐘一郎は、食べ物にも酒にも、トコトンうるさい。美味しいものをより美味く食べて、それに合った酒を選らんで飲んでこそ、人生は楽しいのだということになるのである。

出典:大市民日記

特に、ビールへのこだわりは凄いし、素晴らしい。ビールは缶ではなくビンに決まっている。缶ビールは確かに便利だが、ビンのビールに比べると旨さは落ちる。そして、究極のビールの飲み方は、小ビンのラッパ飲みである。そういえば、前の会社の個性の強かったサーファーでもあった先輩は、ビールをいつも小ビンのラッパ飲みでしていたな。若くして逝ってしまったが、懐かしい想い出だ。本当に、美味しそうだったな。

出典:大市民日記

ハードボイルドに、池上遼一風に、ビールは上手しなのである。

出典:大市民最終章

山形鐘一郎は、食べモノに対して、トコトン五月蠅いのである。メチャ安で、白菜ナベを作るのだ。カツ丼のカツは薄い方が良い。鮨の注文は味のサッパリしたものから。

出典:大市民日記

夏の最後に、ソーメンも旨し!!なのであった。ちょっとした、ひと手間で、

出典:大市民日記

風呂へのこだわり

銭湯の一番風呂好きな山形は、必ず七つ道具を持参する。①下駄②檜のオケ③風呂の中で飲むオチョコとお酒④冷えたビール⑤天花粉⑥フンドシ⑦着流し、だ。

肉体へのこだわり

健康と強靭な肉体こそが人生を謳歌するためには当然必要なものであるとする山形鐘一郎は、水泳に通い体を鍛える。健全な肉体にこそ、小説も食も酒も、その意味を持つ。

なので、山形鐘一郎は、水泳の中に、心身を鍛える完全無欠なスポーツだと思っている。同じく、ボクシングも水泳同様に反骨精神を養う素晴らしいスポーツである。テニスやゴルフなどでは、ダンディズムも反骨精神も養えない。そして、今日も、山形は体を鍛えるのであった。

生き様のこだわり

アナログを愛する山形鐘一郎。毅然として、反デジタル派であるのだ。人間らしさを追求する男、山形鐘一郎は、パソコン文化やSNS世界に反旗を翻すのである。ム、ム、ム。こだわりが凄い。クセが強すぎる。そして、兎にも角にも、マイペースなのである。こういう男も、必要かもしれない。

出典:大市民日記
出典:大市民日記

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