柳沢きみお漫画にみる男の世界

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柳沢きみお

昭和の時代に結構流行った柳沢きみおの漫画が、今の令和という時代でも面白い。否、今の令和の時代だからこそ、その漫画にみられる男達の生き様がかなり心に染みてくるところもあるのだ。

柳沢漫画に出てくる男達は、決まって、ある時に、自分の人生はこのままで良いのかと悩み始めるのである。そして、彼らは自分の中に残っているというか燻っている自分の本当の想いや夢や生き方や考え方に敢えて向かい始めるのである。そこに行き着くまでの葛藤や心理描写がとてもリアルに面白い。読んでいて、その主人公達に何故か応援したくなってくるのである。

男の自画像-中年男 プロ野球激闘物語- 1 Kindle版¥0

中年男が再びプロ野球選手を目指す異色のスポーツマンガ、開幕!

プロ野球チーム・東京セネターズのピッチャーだった並木雄二(36)はひじを壊して29歳で引退し、サラリーマンに転職した。元スチュワーデスの美人妻、そして一男一女を儲けて平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。だが、並木は物足りなさを感じる。プロ野球時代のバッターとの真剣勝負、それをもう一度行いたいと強く思うようになった。そして、一念発起し、会社を退職、家族とも別居し、再びピッチャーになるための練習を始めるのだった。36歳という年齢でのプロ野球復帰は絶望的と言われるが、果たして、復帰なるか?

内容紹介

少しだけ、漫画の中身を覗いてみてみよう。

野球を通じて、40歳を間近に控えた男の生き方を模索するマンガ。

サラリーマンから中年になり野球の世界に戻り、8年ぶりにプロの一軍のマウンドに立った並木。そのカムバックの武器は、ナックルであった。

色々と抱えている自分の問題をも、この一球に賭ける。

出典:男の自画像(柳沢きみお自分史「ストーリー編」:イースト・プレス)

流行唄(1)(2)愛蔵版 Kindle版:各¥99

成功を収めた男が、大学時代の親友の死を告げる葉書をもらってから、大晦日に、青森の彼の最後にいた旅館に向かう。そこで、彼の心に突き刺さったこととは何か?中年から老年に向かう男の生き様とは?

歌は世につれ、世は歌につれ――どんな時代にも歌はある……。
大手レコード会社の副社長の郡司。彼は社長に見出され婿養子になり、誰からも将来は明るいように見えた。
そんな彼の心の中は・・・

内容紹介

老いや死への恐怖を感じ始めた時に、果たして、男は、出世や金に一喜一憂する人生が本当に正しいのか、自分に問い始めるのだった。

真冬の青森の海の圧倒的な威圧感と寂寥感。それは、男に何を与えたのか?

自分の残された時間の短さを知ったときに、男は?

限りある生を感じた時に、男は、何をなすべきなのか?

自分が世の中に残すべきものは何なのか?

出典:流行唄(柳沢きみお自分史「ストーリー編」:イースト・プレス)

三十路

十代・二十代の圧倒的な若さから、肉体的にも精神的にも衰えを感じ始める三十路の男の感性をえぐった漫画。

主人公三十路のもがく姿が切ないところだけど、俺的には彼ではなく、その妻貴子の不倫相手上司との会話が気になった。その相手の男の言葉が、またもや、男のある意味願望を描いてもいるのである。確かに、そういう面もあるのだろうな。男には、心の中に。多分。

出典:三十路(柳沢きみお自分史「ストーリー編」:イースト・プレス)

THE大市民 大合本 全5巻収録 Kindle版:¥1,265

大市民の面白さは、当然のことであるが、作者柳沢きみおの分身である❝山形鐘一郎❞の存在というか、その発言内容なのである。貧乏アパートに住みながら、人生を謳歌している小説家。

その発言は、名言であり、その通りと思わず感じてしまうのである。エッセイ漫画としても、はたまた、哲学書としても、このマンガが面白いのである。まことに。


THE大市民 大合本 全5巻収録

世田谷に引っ越した人生の達人・山形鐘一郎が、独自の視点でさまざまな問題を語り尽くす!
原宿から世田谷の砧に引っ越した小説家の山形。相変わらず安アパートで冷えたビールを愛する日々を楽しんでいた。
そんなある日、隣室の銀行員・山田を得意の白菜鍋でもてなした山形は、リストラに脅え、人生に疲れている彼に「自分にこそ認められる生き方をすべきだ」と語って聞かせる。柳沢きみおの自伝的エッセイ風コミック!

内容紹介

『そうだ。恋の第一歩は、自分を磨く事を自分に要求することだ。』

『人生から自由を失ったら死人と同じです』

『人生とは自分がどのように深く深く考えようと人に相談もして深く深く深く考えようとつまるところなるようにしかならないのだ』

山形鐘一郎曰く、『銀座で10万も出して飲むシャンパンのドンペリよりも山奥の清水の一杯の方がおいしいように、貧乏では困るが、金やゼータク品では人は幸せになれない。』

出典:大市民(柳沢きみお自分史「ストーリー編」:イースト・プレス)

柳沢きみお漫画における男の世界

柳沢きみおは、その漫画『未望人』は、主人公の男が、家族を捨て、サラリーマンを辞め陶芸家になって好きな女と暮らすというストーリーものなのだが、その彼に、こう言わせている。

長い長い旅をしていたような気がする。いろいろな事があったような何もなかったような、長い旅だった。

そうか、色々と紆余曲折して大変な時間を過ぎていくのであるが、終わってしまうと、そんなものだったかというあっけない感じもするという、この感じ。柳沢きみおは、この諦念をかなりしっかりと持っている感じがする。

フーム、そうかもしれないけれど、それは、そういう世界にチャレンジをした人間だからこそ、言える感想であり、人生の面白さや大変さを感じさせてくれる作品が多いのだ。

出典:未望人(柳沢きみお自分史「ストーリー編」:イースト・プレス)

柳沢きみおの漫画に出てくる男は、総じて、自分の今までの人生の流れに関して疑問を持ち始め、そして、新しい世界に向かっていくというストーリーの中心にいるのだ。そこに、重点を置くものが、愛なのか?仕事なのか?自分の矜持なのか?友人なのか?家族なのか?会社員なのか?個人としての生き方なのか?その狭間で揺れる心理描写を、あの独特なタッチのウマ下手画で展開していくのである。

大体が、中年に向かおうとする若者か、中年から老年に向かおうとする男達が主役なのであるが、昭和の世界のマンガでも、今の時代における男の有り様について参考になりそうな面白い話が多く、読むことをお勧めしたい。

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