女のいない男たち:村上春樹MonoMania

小説
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アーネスト・ヘミングウェイ

この短編小説の最初のまえがきにあるように、アーネスト・ヘミングウェイの「Men Without Women」を想い出す人が多いだろうと触れている。

それと同じような題であることを否定はせず、ただ、ヘミングウェイは体育会的で自分のこの小説群は何となく文科系的であることを示唆している。

そして、これらの作品を書いている間、村上春樹は、ビートルズの「サージェント・ペパーズ」やビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」のことを緩く念頭に置いていたという。

ドライブ・マイカー

この短編小説の一番最初の小説が「ドライブ・マイカー」だ。

ストーリーのベースになる車が「サーブ900コンパーティブル」となる。

若い女の運転手は、男物のヘリンボーンのジャケットを着て、茶色のコットンパンツをはき、コンバースの黒いスニーカーを履いている。

主人公の家福が雇うドライバーだ。体格が良いと言う。

家福は亡くなった妻の最後に付き合っていた男の俳優高槻と友人となり、一緒にバーの静かなボックスでモルト・ウィスキーを一緒に飲み、話をするまでになる。

その話を女ドライバーにする。復讐のため?それとも?村上が、この高槻に言わせた言葉がこの短編のキイワードかもしれない。

本当に他人を見たいと望むなら、自分自身を深くまっすぐ見つめるしかない

村上春樹「ドライブ・マイカー」:女のいない男たち収

イエスタディ

次の短編小説は「イエスタデイ」だ。ビートルズのイエスタデイに関西弁の歌詞をつけた木樽という男の話だ。

田園調布生まれで育ちの男が関西弁を使う。えりかという幼馴染の女友達がいる。主人公は木樽の友人で、木樽の強い勧めで一度だけ、えりかとデートする。桜丘の小さなイタリアンでピザを注文し、安いキャンティワインを飲む。話は全て木樽のことだ。

お互い好きなのに、それ以上発展しない木樽とえりかの話だ。そして、それから時間が流れ、えりかと再会し、外国で寿司職人になっているらしい木樽のことを話し合う。

この短編のオチは何か?意外と以外か、次の一言に尽きるのでは。

多分、孤独のことなのだろうけど。

昨日は/あしたのおとといで  おとといのあしたや

村上春樹「イエスタデイ」:女のいない男たち収録

独立器官

3つ目の短編は、「独立器官」だ。登場人物は、五十二歳の美容整形外科医の渡会(とかい)だ。

独身であった彼がある人妻に恋煩いをして拒食症になって体重は激減し最後は心不全で死んだという話だ。

この相手の女性は酷い女性で家庭や渡会以外に第三の男がいて、その男と一緒になるために渡会から多額の金を取り、渡会も家庭も捨てたという設定だ。

純粋に、渡会は世の中の全てを拒絶する。そして、ピノ・ノワールに詳しい渡会は僕に、未使用のブラックナイトの新製品のスカッシュ・ラケットを残す。

この短編の肝は何か?

仕事においても、私生活において何の不満も問題もない渡会が近頃真剣に考えてしまうことか。

自分とはいったいなにものだろう」と彼は常に思う。

このことは俺自身に翻っても、確かに感ずることではある。歳を取り、方向性が決まっていても、そのような感性に至ることはある。

自分がこれまで送ってきた人生が意味を持たない無駄なもののように思えてくることが。だが、多分、このことではなく、題にあるように、次の言葉なのだろう、きっと。

すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき備わっているというのが渡会の個人的意見だった。

村上春樹「独立器官」:女のいない男たち収録

木野

気になる短編の次は、「木野」だ。木野は主人公の名前で、その名前のジャズバーを開いている。

トーレンスのプレーヤーとラックスマンのアンプ。

小型のJBL2ウェイ。

なかなかのオーディオ装置を入れている。

この短編は短編なのに、多くの登場者が出てくる。痩せていて肩幅が広く眼光の鋭いカミタ。ハードボイルドにクールで強そうだ。五月蠅い二人のヤクザ。伯母。別れた妻。野良猫と蛇3匹。妻と別れた後久しぶりに抱いた客の女性。その女の顎髭の男。

この小説は最後に向かうにつれて、神がかってくるというか、現代の神話の様相をしてくる。登場人物や動物の全てが関係してくるのだ。不思議な色合い。

だから、面白い。この小説の一番言いたいことは次のことだろう。

人間が再スタートするためには、本当にその時に傷つかなくてはならないということだ。

「僕もやはり人間だから、傷つくことは傷つく」と木野は答えた。でも、それは本当ではない。少なくとも半分は嘘だ。俺は傷つくべきときに十分に傷つかなかったんだ、と木野は認めた。本物の痛みを感じるべきときに、おれは肝心の感覚を押し殺してしまった。

村上春樹「木野」:女のいない男たち収録
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