中原中也『E』面:ハードボイルド詩集館

中原中也

中原中也の詩の5面目まで来た。今回は、ダダイズムの中也に注目してみよう。

ダダイズムって、何よ。Wikipedia的には、次のようなこと。

ダダイズムダダ主義あるいは単にダダとも呼ばれる。第一次世界大戦に対する抵抗やそれによってもたらされた虚無を根底に持っており、既成の秩序や常識に対する、否定、攻撃、破壊といった思想を大きな特徴とする。ダダイスムに属する芸術家たちをダダイストとよぶ。

Wikipedia
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春の日の怒

田の中にテニスコートがありますかい?
春風です
よろこびやがれ凡俗(ぼんぞく)!
名詞の換言(かんげん)で日が暮れよう

アスファルトの上は凡人がゆく
顔 顔 顔
石版刷りのポスターに
木履(きぐつ)の音は這(は)い込もう

名詞の扱いに

名詞の扱いに
ロジックを忘れた象徴さ
俺の詩は

宣言と作品の関係は
有機的抽象と無機的具象との関係だ
物質名詞と印象との関係だ。

ダダ、ってんだよ
木馬、ってんだ
原始人のドモリ、でも好い

歴史は材料にはなるさ
だが問題にはならぬさ
此(こ)のダダイストには

古い作品の紹介者は
古代の棺(ひつぎ)はこういう風だった、なんて断り書きをする
棺の形が如何(いか)に変ろうと
ダダイストが「棺」といえば
何時(いつ)の時代でも「棺」として通る所に
ダダの永遠性がある
だがダダイストは、永遠性を望むが故(ゆえ)にダダ詩を書きはせぬ

不随意筋のケンカ

不随意筋(ふずいいきん)のケンカ
ハイフェンの多い生活

△が○を描いて――
ああスイミツトーが欲しい

タバコとマントの恋

タバコとマントが恋をした
その筈(はず)だ
タバコとマントは同類で
タバコが男でマントが女だ
或時(あるとき)二人が身投(みなげ)心中したが
マントは重いが風を含み
タバコは細いが軽かったので
崖の上から海面に
到着するまでの時間が同じだった
神様がそれをみて
全く相対界のノーマル事件だといって
天国でビラマイタ
二人がそれをみて
お互の幸福であったことを知った時
恋は永久に破れてしまった。

初恋

最も弱いものは
弱いもの――
最も強いものは
強いもの――

タバコの灰は
霧の不平――
燈心(とうしん)は
決闘――

最も弱いものが
最も強いものに――
タバコの灰が
燈心に――
霧(きり)の不平が
決闘に
嘗(かつ)てみえたことはありませんでしたか?
――それは初恋です

頁 頁 頁

頁 頁 頁
歴史と習慣と社会意識
名誉欲をくさして
名誉を得た男もありました
認識以前の徹底

土台は何時(いつ)も性慾みたいなもの
上に築(きずか)れたものの価値
十九世紀は土台だけをみて物言いました

〇××× 〇××× 〇×××
飴(あめ)に皮がありますかい
女よ
ダダイストを愛せよ

南無 ダダ

南無 ダダ
足駄(あしだ)なく、傘なく
  青春は、降り込められて、

水溜(たま)り、泡(あぶく)は
  のがれ、のがれゆく。

人よ、人生は、騒然たる沛雨(はいう)に似ている
  線香を、焚(た)いて
      部屋にはいるべきこと。

色町(いろまち)の女は愛嬌(あいきょう)、
 この雨の、中でも挨拶をしている
青い傘
  植木鉢も流れ、
    水盤も浮み、
 池の鯉はみな、逃げてゆく

永遠に、雨の中、町外れ、出前持ちは猪突(ちょとつ)し、
      私は、足駄なく傘なく、
    茲(ここ)、部屋の中に香を焚いて、
 チュウインガムも噛みたくはない。

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