私が彼を愛した理由:ショート・ショート②

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ショートショート

有難いお言葉

前回、実験で主人公が横浜流星的な人物を意識した短編、それもショート・ショートを書いてみました。それは、『ポッド』という題名のショート・ストーリーでした。アップしたら、意外な反応がありました。

自分としては、1回で終わる掌編小説を書いたのです。ところが、この後の展開がどうなるか気になるという、読んでいただいた何人かの方に、そんな反応を頂きました。有難い感想でした。

しかしながら、次の展開は全く考えておらず、ああいうような「結」にしておいてあります。まあ、そのあたりがショート・ショートの持ち味なんでしょうけど。

そんなこんなで、毎回、色々なテーマで、実験として、横浜流星と伊藤健太郎ですね、この若き才能のある俳優二人を意識して、ショート・ショートを作成していくつもりだったのであります。

本日も、伊藤健太郎のショート・ショートを作成し、アップしました。題名は、『交錯する時』です。これも、彼の雰囲気を意識して作ったものです。

ですので、今後も、当分はこの二人が自分のマインドを刺激してくれるので、彼らを意識した、それぞれ独立したショート・ストーリーを作成していこうかと考えています。

その中で、あの『ポッド』の連続的なショート・ショートを書きたくなったら、書き記しますので、お許しください。彼は500年前に行けるのでしょうかね。彼の祖先に逢えるのでしょうかね。

だから、今後とも、私が書いていくであろうそれぞれの話は、支離滅裂に、独立しているのではないかと思います。

それで、今回の横浜流星氏。どういう人でどういうシーンにしましょうかね?

私が彼を愛した理由

どうして、彼を好きになったのかと言われても、多くあり過ぎて、答えを絞れない。

彼は多くを語らないから。

ただ、じっと、話を聞いてくれるから。

眼鏡の向こうから見つめる目が美しいから。

細い体だけど、それなりに鍛えられているように見えるから。

私のことを深く詮索をしないから。

意外なほど寒かった冬に出会ってから、半年が経過した。

高額なバイトとして派遣されてきた彼は、会った初めての日、私の行きつけのバーで、とても、静かで穏やかだった。彼は、何も緊張はしていなかった(と、思う)。まるで昔からの知り合いが話もせずに、酒を飲み交わしているという感じだった。

私たちは二、三、これからのことを話をした。柔らかい、成人した男にしてはやや高めの声だった。

その夜は何もせずに、別れた。そうする方が良いと思ったからだ。初めて、長い付き合いをしたい男に出会えたと直感したからだ。

エージェントを通じての紹介であったので、最初から問題はない。生い立ちも経歴も現在の職業も、しっかりしている。夢のために、この高額なバイトをしているということにも嘘はないようだった。

金というものに対しても、欲はなさそうだった。

自分の仕事柄、長い付き合いをすることは避けるのが私の鉄則であったが、彼の敵愾心のない穏やかな容姿に、初めて自分の決めたルールを破ることにした。

私たちは、それから、週に1回は、デートのようなことをした。

最初は、銀座や恵比寿や六本木などのシックなレストランでディナーを取り、古いバーで酒を飲んだ。

必要以上に話をしなかったが、居心地は良かった。私は自分のことを偽る必要もなかった。彼はいつも、そこにいた。古い友人のように静かに。

それでも、彼が一度、聞いてきたことがある。「その、すべきことをしなくても、良いのでしょうか?」と。

ーイイのよ。今は。こうやって、一緒にただ横に居て食事をして飲めれば、今はそれで、いいの。その時が来れば、話をするわ。

それは、自分の本心だった。生まれてから、この歳になるまで、片想いもしたことはない。そういう気持ちになったこともない。

だから、彼を見た時から、そういう自分になってみたいと思ってしまっていた。肉体の関係抜きで。好きという感情が、逢うたびに、募っていった。

それに、突然の大きな仕事も入り、この1ヵ月のうちに、実行をせねばならないこともあった。

彼から見たら、私はどう映っているのだろうか。少し年上の有閑マダム?独身の億万長者?

その仕事の実行日までは、あと1か月。意を決して、彼にこう伝えた。

ー仕事で日本を離れるの。1ヵ月くらい、会えなくなるけど。帰ってきたら、すぐに連絡するわ。

彼が意外そうな顔をした。

ーえ、もうすぐ俺の誕生日ですよ。一緒に祝いたかったです。貴方と出会えたこの歳を祝うために。いつ日本を離れるんですか。明日の夜でも、その前に逢えませんか。

彼の切羽詰まった言いぶりに、動揺した。思わず、明日、会うことを約束した。

彼は自分の誕生日なのに、私と出会えたことに感謝してプレゼントを用意したとまで言ってくれた。そして、明日はホテルの部屋で会いましょうとまで付け加えて。

1日の遅れなど、どうにでもなる。まだ1ヵ月はある。明日、彼に似合うであろうブルックスブラザースのジャケットと時計を購入しよう。

その夜、彼は、ワシントンと連絡を取った。

ー彼女は近いうちに暗殺の準備に入るようです。明日の夜、処理をしますが、問題ないでしょうか。

彼の今回の仕事は、彼にとって、面白くはなかった。早くに死んだ姉を想い出すのだ。だが、仕事は仕事だ。

高層階の部屋の窓から見える東京の夜景は、まばゆいほど、綺麗だった。

プレゼント、か。

彼は独り言ちた。

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