彼のショートショートの2回目を開催。前回も夏的シーンであったので、今回も夏のイメージで自動筆記をしてみよう。バックミュージックは、ドン・ヘンリーの『The Boys of Summer』にしてみよう。なので、題名も「The Boys of Summer」だな。
The Boys of Summer
その夏は、どこに行くのも、いつも三人で一緒だった。
彼は夏休みの間中、昼の2時過ぎまでは、植木屋のバイトをしていた。と言っても、自宅の近隣の同じような平屋の家の前の芝生を刈り取っていただけだが。
この辺りは、昔の米軍の住まいだったところが日本人に払い下げられた地域で、彼の家もその中にあった。
とても、整斉とした区画で、あらゆる原色の門塀があった。平屋の家は全て白で統一されいてた。アメリカ様式の家。夏の眩すぎる日差しの中では、それなりに絵になっていた気もする。時々、風が熱風を舞い上げてくれた。
夏は好きだった。空気は乾いていたし、陽射しは抜群にホットだったし、なんてたって、女の子たちはみんな素敵な夏服だったから。
歩と心平は、彼の小さい時からの幼馴染みだ。同じこの街の中に住んでいて、幼稚園から高校まで同じ学校に通った。同級生だ。
歩はこの2,3年で本当に足がすんなりと伸びた。カモシカのような足だと心平は言う。顔の黒さと同じ色のその足は、彼にとっては、いつも眩い。
女のくせして、サーフィンも陸上もする。髪は海風で少し脱色している感じだ。
ときどき、朝、彼の家に来て、ドアの前で待っている彼女にドギマギしたこともある。何しに来たんだよと口では言うものの。セーラー服を着ている笑みを絶やさない彼女から、いつも、ココナッツの匂いがしていた。
心平も運動神経は良かった。サッカーに賭けている。高校のサッカー部には入らず、地元のフットボールクラブのユースに加入していた。歩と同じで焼けている。二人は並ぶと兄妹のように、黒く筋肉質だった。
彼もバスケットを続けている。だから、色は白い。そして、夏は当然好きになる。肌を焦がしたいから。歩と心平に近づきたいのだ。
サッカーにもサーフィンにもバスケットにも、何故か、その夏は長い休みがあった。それで、夏の日の午後は彼のバイトが終了すると、三人は一緒になった。
街はずれの喫茶店で会うこともあったし、街の真ん中にある公園のベンチで長話をすることもあったし、皆の部屋に押しかけて勉強らしきことをすることもあった。
夏はプールだよな。海でもいい。
私はいいわ。当分、海には行きたくないわね。暑いし。
え。オマエ、プロにならないの。
はぁ~。無理っしょ。
見てみたいな。また、歩のライディング。今じゃあ、チビッ子じゃやないからな。
なによ、それ。
健太郎は、バカの心平と違って、バイトしているもんね。偉いね。
俺も海行きたい。歩のサーフィンを見てみたい。
え?
歩が真直ぐに彼を見つめてきた。
本当に?
本当だよ。歩が来て欲しいと言ったら、行くさ。
本当に?
歩がビキニ姿で、サーフィンをしてくれるのなら行くさ。へへ。
馬鹿。健太郎。
笑って、誤魔化したのかもしれない。それは心平も同じだろう。
二人ともカッコ良いんだから、彼女の一人や二人作らなきゃ駄目ね。今のままじゃあ、ただのエロオヤジだよ。二人のファンって、結構多いんだよ。
幼馴染み。仲の良い三人。友達。
彼は、夏休みに入る前、教室の窓から運動場を見ていた。小雨に濡れながら100メートルダッシュをしている歩の姿を眺めていた。とても良い走りだった。
そうだな。やはり、心平のいうように、カモシカだな。野生の綺麗な。
夏ってのは、まあ、あれだよな。空気が澱んでいそうで澱んでなくて、吸い込む空気が綺麗だよな。特に、朝なんか、凄いよな。
何言ってんだ。オマエ。
歩の部屋の壁には、結構、名言が飾ってある。
何かを得るためには、何かを失わなくてはならない。
そんな言葉より、今はブルース・リーだな。
Don’t think, feel
そうだったら、良いのにな。感じるだけで進めたら。友情ってやつは辛いぜ、寅さん。わかるかい。二人とも、イイ奴なんだよ。
その日のまだ昼のような夕方、天気雨が降った。
濡れながら走って帰って行く二人の姿を、濡れたまま、彼は見送った。
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