Of Missing Persons:ショートショート⑤

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ショートショート

今回のショートショートは、ジャクソン・ブラウンの曲と横浜流星のイメージとが交錯するような世界。深夜の都会の中の隠れたバー。女との会話。それだけの設定。

Of Missing Persons

ーどうしていたの?今まで。

え?

バーの店内の照明は暗く、声が、壁に沁み込んでいく。

低い音で、ジャクソン・ブラウンの「Sleep’s Dark and Silent Gate」が流れていた。

Sleep's Dark and Silent Gate
Provided to YouTube by Elektra AsylumSleep's Dark and Silent Gate · Jackson BrowneThe Pretender℗ 1976 Elektra/Asylum Rec...

知らない女(ひと)だった。

ー忘れたの?

え?

あ、はい。どうも事情が呑み込めなくて。お話の。

彼女の前には、注文されたバーボンのロックのブライトンがそのまま残っている。グラスの表面に水滴がついたまま。

ー随分と探したのよ。私。

ーこんな都会の中の奥まった先にある小さなビルの上にあるなんて。わかりにくいわよね。

彼女は美しかったし、若かった。でも、声は落ち着いていた。上品な服を着ていたし、ネックレスにも気品があった。

本当に、わからないのです。お客様のことが。申し訳ないのですが。

ーそういう答えが返ってくるなんて、思いもよらなかったわ。

ーでも、そういうことも許してしまいそうなオールドファッションな素敵なお店ね。

はあ。手持ち無沙汰に、グラスを磨いていた。

ー本当に、私のことがわからないの。

はい。

ー2年も経ったのよ。貴方がいなくなってから。

・・・・。

ー事故にでもあったの?記憶がなくなるような。

いえ。全く、そんなことはありません。2年前も、ここで、同じようにこの商売をしておりました。

ーそれは嘘ね。実際に、今、ここに、貴方がいるわ。

ええ、ですから。私はずっと、ここで、同じこの仕事をしておりました。

ー何故、逃げる必要があったの?

・・・・。

ー何も悪いことはしていないし。お金も私が返したし。

お客様。本当に、仰っていることが理解できません。

彼女はようやくブラントンに口をつけた。グラスの縁に赤いルージュが残った。

ーそうか。こういう方法もあるのか。役者だわね。考えもつかなかったわ。

え?どういうことでしょうか?

ー頭の良い貴方のことだけど。こんな態度をするなんて、考えもしなかったわ。

・・・・。もしかしたら、私に瓜二つの人がいて、その方を探しているのでは?

ーそんなことはないわ。貴方の喋り方も仕種も立ち振る舞いも全て、あの頃の貴方に間違いがないから。

お客様。誠に申し訳ございませんが、本当に、あなたのことは知らないのです。

ー貴方の体のことを私は良く知っているから、体を合わせれば、すぐにわかるわ。

滅相もありません。グラスが空いたようですが、何かお飲みになりますか?

ーダイキリを頂戴。

今では、ジャクソン・ブラウンの「Of Missing Persons」がかかっていた。

Of Missing Persons
Provided to YouTube by Rhino/ElektraOf Missing Persons · Jackson BrowneHold Out℗ 1980 Asylum RecordsOrgan: Bill PayneBas...

ーまあ、いいわ。これから、いつでも会えるわ。

女は、店を出て、メールを打った。

「確かに。間違いなく。とても優秀な素材です。」

Monochrome Photography of A Person

座長、お元気でしょうか。貴方はMissing Personには、なり得ない。そこの場所がどんなに暗くて静かな場所だとしても。待っています。

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