ポッド2:ショート・ショート

ショートショート

今回のショートショートは、最初に書いた『ポッド』の続きを考えてみた。

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ポッド2

次に目覚めたのは、目的の時と場所に着いたと思わしき時だった。一度目が覚め、それから、どのくらい、眠っていただろうか。

500年というとんでもない時間の遡及をしたわけなのだが、それほど、体へのダメージはない。むしろ、途中で目覚めた時の方が体がきつかったことを覚えている。

時空を超えるために発見されたひも理論。直線的ではなく、ひもの端と端が結び合う物理的な方法での時空超え。

事前の研修で学んだことでは、確か、1年刻みで時間が経過することになっている。1年で、約3日が流れる。なので、500年、1500日が経過した。4年時間が流れたことになる。

当然、仮死状態の冬眠に入っていたわけであるが、どうやって、自分が途中で覚醒して、また冬眠に戻れたのかが良く分からない。そのこと自体も、長い休眠の中の夢とかいうもののひとつだったのだろうか。

覚醒すると同時に、体全部のチェックとポッドのシステムチェックが自動的におこなわれた。運のいいことに、何一つ問題は生じていなかった。

もしも、ポッドに問題が生じそれを自力で修復出来ない限りは、500年後に戻ることは出来なくなる。そうなのだ。時空を超えることで未だに解決できていないのが、過去と現在を繋ぐ通信方法だ。

脳にインプットされているポッド情報を含めたあらゆる分野の技術・理論で太刀打ちが出来ない時に、本部に連絡を取る術はない。そして、本部からも自分を誘導してくれる遠隔操作も出来ない。

先輩たちの多くが、未だに戻ってきていないのは、そういう背景もある。

彼は、本当に、独りになったのだ。知らない世界で。

それは、それなりのハードな研修で、何度も教えられてきたことだ。独りでいることに耐えることこそが、全ての原点だと。

ポッドは、計算に間違いがなければ、人の目に触れることはない白神山地の奥深い森の中に現れたはずだ。

そこは、焦点を合わせた過去の時代でも、人が簡単に入山することは出来ない場所だったはずだ。

白神山地は488年前の大きな戦争の時に、日本の聖地となったところだ。「シラカミさま」と呼ばれ、国民はそこの場所を崇拝した。

地上生活を諦める少し前のことだ。

地球の温暖化の急速進行で九州とか言われた地域はそれまで夏だった豪雨が毎月来るようになり住める場所が少なくなっていった。地震も頻発していた。

人は関門海峡を渡り始めた。しかし、渡った先の四国や中国といった地方も、直ぐに、九州と同じ雨の中に消え入りそうだった。

まだ少しの機能を残していた政府は、東北と言われた地域への入植政策を進め始めた。こういう方向での未来を気象学者を始め誰もが予想出来なかった。

とにかく、そのあたりの歴史についても、彼の脳の数億とあるファイルデータの中に、しっかりと記憶されている。

しかし、今、大事なことは、このポッドを抜け出して、まずは、この「シラカミさん」の大地に降り立つことだ。そして、体をこの時代の空気に順応させることだ。

ポッド内に備え付けられている最新のミリアム55世代型コンピューター「ミューズ」によれば、外は、かなりの寒さで辺り一面雪のようだ。空気の中に放射能物質は少なく、皮膚系ヘルメットを使う必要はなさそうだった。500年後の元いた場所の地表と気圧もほぼ同じ。

だが、ここで、少なくとも2年は、体を順応させなくてはならない。というか、この時代のこの環境に体を変化させなくてはならなかった。

地下生活を長い間続けてきた人類は、地下で生活できる能力を科学的に無理やり付与してもらった代わりに、必然的に、地上での生活が出来る能力を少しづつ失ってきた。

視力。光に対抗できる皮膚の細胞構成。言語。筋肉。骨。古来人間に備わっていた色々なものが500年という短い間に、変容していた。

ここにも、時空間移動の限界はあった。機械と違い、人の体というものはやっかいなものであった。

彼は、脳にあるマニュアルと「ミューズ」のデータに基づいて、準備にかかった。❝ちょっとしたサバイバル❞という言葉がインプットされていた。

その言葉に気づいた彼は、微笑んだ。ユーモアとかいうやつか、これは。

機械の方が、よっぽど、人間的だな。

途中から、ミューズをボイス化させた。どこかで聞いたことのある柔らかな女性の声だった。そして、ミューズのリモートモバイルもセットした。これで、ポッドの外でも、情報と知識と危機管理については十分に対応できる。

高性能テント、簡易式食料(300日分キット)、点火キット、5Dプリンター、古代登山用道具一式、等、必要なものは揃えた。地上に降りるために、1週間は、ポッドの中で色々なことを学習しながら、機材をそろえた。

当然ながら、レーザー銃を始めとする武器も揃えた。かなりの分量になったが、やむを得ない。少しずつ、この場所で体を馴染ませていかなくてはならない。

そして、彼は、ようやく、ポッドを開けた。

白いほどに、眩しかった。

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