コーヒーとハードボイルド

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ハードボイルド

ハードボイルドの重要な脇役は決してウィスキーだけじゃないぞ。このコーヒーだって、十分に脇役を演じているんだ。

ハードボイルドとコーヒーとの関係って、どうなんだろうということで、この記事を書いてみることにしましたです。基本的には、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウで探してみたよ。

ロング・グッドバイ

私は立ち上がり、机の向こう側に歩いてまわり、正面から彼の顔を見た。「私はロマンチックなんだよ、バーニー。・・・・最後にテリー・レノックスに会ったとき、我々は私が作ったコーヒーをうちで一緒に飲み、煙草を吸った。そして、彼が死んだことを知ったとき、私はキッチンに行ってコーヒーを作り、コーヒーを作り、彼のためにカップに注いでやった。そして、彼のための煙草を一本つけてやった。コーヒーが冷めて、煙草が燃え尽きたとき、私は彼におやすみを言った。そんなことをやっても一文にもならない。君ならそんなことはしないだろう。だから、君は優秀な警官であり、私はしがない探偵なんだ。

ロング・グッドバイ 村上春樹訳

なんという、ロマンチックなフィリップ・マーロウのセリフ。歯が浮いても、ハードボイルだ。レイモンド・チャンドラーはマーロウにコーヒーを使って、結構素敵なセリフを言わせている。きっと、チャンドラーは無類のコーヒー好きだったのだろうね。わかる気がするよ。

こんな文章もあるぞ。

「君の言うとおりだ、キャンディー。今朝はぜんぜんタフじゃない」・・・・トレイの上には、コーヒーの入った小さな銀のポットと、砂糖とクリームと、三角形にきれいにたたまれたナプキンが載っていた。彼はそれをカクテル・テーブルの上に置き、空になった酒瓶と、そのほか酒に関係したものを集めた。床にころがっていたもう一本の酒瓶も拾い上げた。「つくりたてのコーヒーだよ」と彼は言って出て行った。私はブラックでコーヒーを二杯飲んだ。煙草も試してみた。まともな味がした。とりあえず人間として機能しているらしい。

ロング・グッドバイ 村上春樹訳

コーヒーをしっかり飲めたのなら、人間として機能しているようだぜ。ハードボイルドだな。

ロング・グッドバイには、コーヒーにまつわる表現が沢山出てくる。フィリップ・マーロウがテリー・レノックスを想う気持ちがそこに見出せる。

腰を下ろしたまま、長い間紙幣を眺めていた。ようやく私はそれをレター・ケースに入れ、キッチンに行ってコーヒーを作った。感傷的と言われるかもしれないが、テリーに頼まれたとおりのことをした。二つのカップにコーヒーを注ぎ、彼の方にバーボンを入れ、それをあの朝彼が座ったテーブルの片隅に置いた。彼のために煙草に火をつけ、カップの隣の灰皿に載せた。コーヒーの白い湯気と、煙草の先から立ち上がる細い煙の筋をじっと眺めた。外のノウゼンカズラの中で、鳥が一羽でにぎやかに騒いでいた。独り言でも言うようにチッチッとさえずり、ときどき短く羽ばたきをした。やがて、コーヒーは湯気を立てるのをやめ、煙草の煙も消えた。今では灰皿の端に吸い殻が残っているだけだ。私はそれを流しの下のゴミ箱に捨てた。コーヒーを捨て、カップを洗い、片づけた。

ロング・グッドバイ 村上春樹訳

プレイバック

レイモンド・チャンドラーは他の作品でも、コーヒーをかなり出してくる。そして、そこにあるのは、フィリップ・マーロウのハードボイルドが投影されてしまうのだ。渋い。

私は何もいわなかった。何もいうことはなかった。私はコーヒーをすすった。熱すぎるだけで、そのほかは申し分のないコーヒーだった。

プレイバック 清水俊二訳

私は台所に行って、パーコレーターのふたをとり、二人に一杯ずつコーヒーを注いだ。彼女のカップをベッドへ持ってゆき、私のカップを持って、椅子に腰をおろした。私たちの視線が合った。私たちはふたたび他人になっていた。

プレイバック 清水俊二訳

フィリップ・マーロウと彼女は一夜を共にし、翌朝、コーヒーを飲みながら他人に戻る・・・。なんというハードボイルドなロマンチックなのか。コーヒーって、こんな使い方もあるのね。ハードボイルド小説は勉強になるなあ。

さらば愛しき女よ

フィリップ・マーロウの日常よ。

私は足台に脚をのばして、深い椅子に半ば腰をかけ、半ば横たわっていた。私はブラックコーヒーを二杯飲んでから、ウィスキーを一杯飲み、半熟の卵を二つとトーストを1枚焼いて食べ、それから、コーヒーにブランディを入れて飲んだ。

さらば愛しき女よ 清水俊二訳

そして、この一言。

「いい匂いだな、どうして作るんだ」

「粗挽きのコーヒーで、コーヒー沸しを使わないんだ」

さらば愛しき女よ 清水俊二訳

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