マネーとハードボイルド

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ハードボイルド

金が関係するから、事件が起きて、そして、ハードボイルドにもなる。また、探偵に依頼するにあたっての依頼費用についても、結構、どのハードボイルド小説でも、淡々とクールに出てくるのであった。

ロング・グッドバイ:レイモンド・チャンドラー

フィリップ・マーロウがテリー・レノックスに最初に聞いた話。

「彼はなんと言った?」

「残念だ。幸運を祈る。金は必要かと」。テリーは耳障りな声で笑った。

「金、M・O・N・E・Y-この5文字が、彼のアルファベットでは冒頭にくるんだ。金ならじゅうぶんにあると僕は言った。それから、シルヴィアの姉に電話をかけた。内容はだいたい同じ。それだけ」

出典:「ロング・グッドバイ」村上春樹訳P.52 -P.53

探偵事務所の仕事には、依頼人との間のギャランティの駆け引きの問題がある。これこそが、実はハードボイルド小説の最初なのである。ハードボイルドとは、探偵と客とのお金の駆け引きから始まるものなのである。

「ドアにあんたは探偵だって書いてあった」と彼は噛みつくように言った。「だから、さっさと調査をしてもらおうじゃないか。あの女をとっつかまえたら、五十ドル払おう」

「申し訳ないが、現在はほかの仕事で手一杯なんです」と私は言った。「それにあなたの家の裏庭に身を潜めて、二週間かけて見張りをするというのは、私の職掌には入っておりません。たとえ五十ドルいただけるとしても」

彼はうなり声を上げながら立ち上がった。「大物なんだな」と彼は言った。「そんなはした金はいらんというわけか。罪もない犬の命を救うことに興味はないっていうわけか。たいした大物だぜ」

出典:「ロング・グッドバイ」村上春樹訳P.242

映画として、観るのなら、エリオット・グールド主演の『The Long Goodbye』が、レイモンド・チャンドラー原作に一番近いだろうな。

NHKで製作された日本版の『ロング・グッドバイ』があるけれど。浅野忠信がフィリップ・マーロウ、綾野剛がテリー・レノックスで、昭和の時代に舞台を設定して、これも面白かったな。

そして夜は甦る:原尞

探偵沢崎と新宿警察署捜査課の錦織警部との会話もハードボイルドにクールだ。やはり、探偵への依頼への駆け引き辺りに金の話も絡み、極めて、皮肉たっぷりの男の会話で楽しい。

錦織は窓を閉めに行って戻ってきた。眉をしかめて、何かを思い出すような顔つきだった。そして早口で喋り始めた。「佐伯は最初に真面目で熱心で、信用のできる探偵を知らないか」と訊ねた。そんな探偵がいれば、うちの署で採用しているとおれは答えた。彼は次に「では、とにかく腕のいい探偵を知らないか」と訊ねた。腕がいいなんて形容はいまどき死語に等しいとおれは答えた。彼は今度は「それなら、いっそ金のためなら何でもするという探偵は知らないか」と訊ねた。そんな探偵ならその辺の興信所を探せばいくらでもいるだろうとおれは答えた。すると彼は「なるべくなら個人で事務所を持っているような探偵がいい」と言った。そう言われて、やっとおまえのことが頭に浮かんだ。

「真面目で、熱心で、信用できて、腕がよくて、危険をかえりみず、秘密の守れる、個人営業の探偵だと?それに金のためなら何でもする探偵はいないのかと訊いたのか。恐れ入ったな。佐伯という男は一体何を考えているんだ。彼が何をやっていて、何のために探偵を雇うつもりだったのか、肝腎なことは何一つ訊いていないのか」

「うるさい。こっちは忙しいんだ。おまえたちの暇つぶしなんかに付き合っていられない」

私は頭を振って、ドアのほうへ向かった。「大いに役に立ったよ、警部」

出典:そして夜は甦るP.90-81

そして夜は甦る

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