焚火:ショートショート

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ショートショート

彼のショートショートは、その3回目。夏に似合う男の子は、当分、夏に頑張ってもらいましょう。ゼロから話を考えるのはメンドクサイところもあるが、カタチが整うと、それはそれで面白い。実験とは凄いな。なんてね。

今回は、どんな話に展開するかな。最初の一文が大事だな。今回は眼鏡の彼を意識してみようではないか。それに、

吉川晃司のBonfireとリミックスさせてみるか?

焚火

Bonfire
Provided to YouTube by WM JapanBonfire · Koji KikkawaBrave Arrow / Bonfire℗ 2020 Axcel Music Entertainment Inc. Under Ex...

「どこに行くの?」

何処って。

「先生、この夏は、友達と出掛けるって言ってたじゃない。少しだけ涼しいところへ。」

そんなこと言ってたっけ?

「もう忘れたの。先々週の時に、先生、コーヒー飲みながら、言ってたよ」

そうだったかな。

中学生の教え子のこの子に指摘されたことはしっかり覚えている。

焚火をしたかっただけだ。頭の中にあったことをつい言葉にしてしまった。

女の子は綺麗な顔立ちをしている。今も多分学校でモテるだろう。僕の前ではよく喋るが、学校では、静かにして、お高くとまっているかもしれない。

女の子の世界は多分大変に難しいけど、この子は、今のところ、上手に渡っているようだ。

君はどうするの?夏休み?

「先生、私の質問に、答えていない」

少しだけ、香水の匂いがする。若者らしい石鹸のような芳香。細い首筋。

そろそろ、休み時間は終わりだな。少しだけ難しいことやろうか?

「ひどいな。それが答えなんて。友達って、彼女?」

こらこら。それなら、かなり難しい問題にしなくちゃな。

「ちぇっ。つまんない」

口をとがらせた顔も、唇も、ほんのりと色づいた感じがした。

それなりに難しい数学の問題を出したが、彼女はそれをいとも簡単に解いた。利発な子だ。数学の難問は、ちょっとした解法のひねりがあれば解ける。そこの視点に立てるか立てないかの問題。この子は、そのことを知っている。

ひらめきがあるのだ。別の視点から物事がみれるかどうか。全体を鳥観図的にみれるかどうか。木を見て森を見ずではなく、木も森も同時に見れること。

なのに、男女関係のことになると、疎い。というか、直線的だ。

この地球が始まり人類が誕生してから長い間続いてきた愛とか男女関係とか恋愛とかの一番未来にとって大事なところは論理では解決出来ないことのようだ。

全く、自分にそっくりだ。この子は。人の事は言えないな。

「先生、何、ぼんやりしているの?どうなの、私の解答は?」

うん。ああ。悪い、悪い。

「また、あっちに行っちゃっていたでしょ?先生は私に集中して」

「駄目だよ。若いんだから、そんなに黄昏ちゃあ」

少しだけ、離れて一人でいる時間をお互いに持とうと彼女に言われだけのこと。別れようと言っている訳じゃないの。でも、このままだと、これから上手くいく自信もないの。だから、少しだけね。連絡を取るのを止めよう。

既に2年以上考えている数学のある問題への解決に持っていけそうなヒントというかヒラメキみたいなものが浮かんだ夏の朝のことだった。

その端緒に接近して、つかめそうな感じだった。そうか。全く違うところからなんだ。アプローチの仕方が。頭の中が一瞬青く快晴になった。この感覚を零れ落ちそうにしなくてはならない。

彼女が何かを言っていた。聞こえているのに、聞こえていなかった。濃いブルーの数式で頭の中が一杯だった。

彼女が部屋からいなくなってから、少し時間が経ち、その解決法でも最後の部分を超えられないことが判明した。また、最初に戻ったのだ。

いつも数学が自分の中にあった。彼女は向こうから僕に近づいてきて、いつの間にか、僕の周辺にいた。

ー私はね。随分と前から、あなたのことを発見していたのよ。顔が良いとか身長が高いとかじゃなくてね。その一途なところの凄さをね。

ー他の子達とは違うの。あなたが尊敬に値する人だっていうことをね。皆、あなたのことを変人だと決めつけているけど。私は違うわ。人と違うことに何の興味も抱かないあなたは最初から凄いのよ。

確かに、僕の興味は数学のことにしかなかった。スポーツも他の学科も普通以上にこなせたけど、それには余り興味がなかった。数学に取りつかれていたのだ。

普通の人々はあまり知らないけど、今の世の中でも、解決できていない数式が多くあるのだ。それを解決することは、多分、世の中の未来にとってきっと重要なことに繋がるに違いない。

ある時から、僕はそこに興味を持ち、未だに解決できてない数式を理解することに、小学生高学年から今まで、ただただ、時間を費やしてきた。

出掛けるのなら、友達なら、彼女しかいなかった。出掛ける場所も、焚火ができるのなら、山奥の河原か、人のいない海辺しかなかった。

しかし、彼女はいなくなってしまった。夏の初めに。

「先生。焚火って、英語で何て言うのか知っているよね」

多分、a bonfire かな。a fireだけでも良いね。

「やっぱり、焚火って、bonfireがイイよね。先生」

「先生と二人でbonfireをしたいね」

昔、何か数学以外に好きなものはあるの?と彼女に聞かれたことがある。

火かな。焚火かな。ずっと見ていても飽きない。焚火をしている時間が好きだね。色々なことが浮かばなくなることもあるし、色々なことが一気に浮かんでくることもある。あの時間が好きだね。そんなことを答えたように気がする。

焚火。キャンプ。小さい頃の、唯一の家族での想い出の時。

どうでも良いことなのに、何故か、そのことだけが頭をよぎる。唯一、一緒に焚火をしても飽きない子。そう勝手に思っていたのかもしれない。

Bonfireか。面白い言葉というか造語的だな。英語の方が。そこから何が生まれるんだろうか。今となっては遅いかもしれないけど。

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