顔の美醜について:テッド・チャン

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テッド・チャン

顔の美醜

人間というものは、どこまでも、顔を中心とした肉体の美醜にこだわるのであろうか。どうしてなのだろうか?という疑問を持ったことはあるだろうか。そのことについて、そもそも深く考えたことがあるだろうか。この人間の特性というようなことについて、切り裂いた面白い短編小説を見つけたので、ここに報告をしておこうと思っている。その短編小説の題名は、ストレートに、『顔の美醜について』だ。そして、それのジャンルは、近未来のSF小説である。その小説の小説家の名前は、テッド・チャン。知る人も少ないだろう。多分。

彼はその小説の覚え書きで、この短編について、こんなことを言っている。

心理学者がかつて、旅行者が忘れたように見えるようにして、偽の大学願書を空港に置いておくという実験を何度もしたことがある。願書の記入事項はいつもおなじだったが、架空の志願者の写真をたまに変えるようにしていた。その結果、志願者が魅力的な人物であれば、願書を志願者にかわって郵送する傾向が強かった。これは驚くようなことではないだろうが、われわれが見かけにいかに大きく影響さているかをはっきり物語っている。われわれはじっさいに顔を合わせることが決してない状況でも、顔の良い人間を好むのだ。

あなたの人生の物語

その顔の美醜について、この短編小説では、美しさの利点と短所について触れている。それも、学生や教授・化粧品業界等のコメントというドキュメンタリー形式にして。そして、カリーという美醜失認処置を大学で採用するか否かという奇抜なSF的論点に置き、美醜に関する問題点を提起してくるという面白い仕立てをしているのだ。

人は、多分、顔の良い人間を好むのだ。多分、これは間違いないのであろう。しかし、顔の良いのはどのような基準になるのかっていう問題になるのだろうが。時代では違ってくるというではないか。例えば、まことしやかに言われいるのは、平安時代の女性は下膨れの顔が美人であったと。今の時代であれば、そういう感じではないような気がするが。この美醜基準については美というものは何だろうという哲学的なところに行き着いてしまうので、大変難しく深く入れない。そこで、顔の良い美の今の基準は、大半の人が受け入れている毎日流れてくる人気俳優や女優の顔というあたりに置いておくことにしてみよう。そこが顔の美の数値の高いところだ。そこから外れれば、外れほど、醜の世界に入っていくという基準としよう。

その外形的な美しさは、日常、我々にどのような影響を与えているのか。この顔の美しさは評価され続けられることなのだろうか。顔が美しく綺麗なのか醜いのかわからなくさせてしまう技術というか装置であるカリーアグノシアによって、人はどうなっていくのか。

人は顔の美醜を気にする。ブスとか美人とかいう価値判断をおこなってしまう私達。ルッキズムというか外見判断の問題だ。私達は誰かを美しいと思う時、果たして、それは自分の根源的なところから派生していることなのか。それとも、生まれた後に教育と経験から得たものなのか。そういう論点もある。美はどこから発生するのか。

そして、この美醜に関するルッキズムは、人の道徳や差別とどう関係していくのか。大変に、実はすそ野の広い問題なのである。そこにあえて、挑んだテッド・チャン。この短編小説は知られてはいないが、面白いのである。人の根底問題に行き着くからね。

顔の美醜に重きウェイトが置かれている現代。コロナという困難で暗い中、一度、この顔の美醜そのものに対するルッキズムを考える良い時期に来ているのかもしれないね。しかし、この美醜に関するルッキズムは人間のDNAにあるものなんだろうかね。教えてほしいものですね。

テッド・チャンの小説

このSF小説家の小説は、極めて、面白い。そして、この小説家のことは知らなくても、映画好きならば、彼の小説『あなたの人生の物語』を原作にした映画『メッセージ』を知っている人は多いのではないだろうか。

とても、斬新な、しかし、将来あり得るかもしれないSF映画であったのだ。

突如地上に降り立った巨大な宇宙船。謎の知的生命体と意思の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、物理学者イアン(ジェレミー・レナー)とともに、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。そして、その言語の謎が解けたとき、彼らが地球にやってきた驚くべき真相と、人類に向けた美しくもせつないラストメッセージが明らかになる

内容紹介

かくの如く、テッド・チャンは素晴らしいSF小説家なのである。

ちなみに、日本で、顔の美醜について描いた作品には、累がある。この漫画を原作にした映画も、顔の美醜についてサスペンス仕立てで考えさせてくれる作品となっている。

幼い頃より自分の醜い容姿に劣等感を抱いてきた女・累。
今は亡き伝説の女優・淵透世を母に持ち、母親ゆずりの天才的な演技力を持ちながらも、母とは似ても似つかない容姿に周囲からも孤立して生きてきた。そんな彼女に母が唯一遺した1本の口紅。それは、キスした相手の<顔>を奪い取ることができる不思議な力を秘めていた―ある日、累の前に、母を知る一人の男・元舞台演出家の羽生田が現れる。累は羽生田の紹介で、圧倒的な“美”を持つ女・ニナと出会う。ニナはその美しい容姿に恵まれながらも、ある秘密を抱え、舞台女優として花開かずにいた。母ゆずりの“天使的な演技力”を持つ累と、“恵まれた美しさ”を持つニナ。運命に導かれるように出会い、“美貌”と“才能”という、お互いの欲望が一致した二人は、口紅の力を使って顔を入れ替える決断をする。累の“演技力”とニナの“美しさ”。どちらも兼ね備えた“完璧な女優”丹沢ニナは、一躍脚光を浴び始め、二人の欲望は満たされていく。しかし、女優・丹沢ニナの活躍が目覚ましいものとなるにつれ、二人の協力関係が崩れはじめ、嫉妬と欲望にかられた欺き合いへと変貌を遂げる―

内容紹介

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