ハードボイルドの心

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ハードボイルド

ハードボイルドの心とはいったい何だろうか。ふと、考えてみた。コロナショックの世界の中で、考えてみても良いことのような気もしてきた。

心の中心にあるのは、タフさか、優しさか、正義感か。自分の持つルールは何だろうか?自分はそのルールを、揺らぐことなく、忠実に守り通しているだろうか?そこにこそ、ハードボイルドな心があるような気がするね。

タフ

「名はスペンサーだ、サーの綴りは、詩人と同じようにSだ。ボストンの電話帳に載っているよ」外に出てドアを閉めた。また開いて中に首を突っ込んだ。「《タフ》という見出しの項にな」

初秋 ロバート・B・パーカー

ロバート・B・パーカーのヒット連作のスペンサーシリーズの1つには、こんな文章がある。タフのことが面白く書かれている。男の誰もが、どんなオタクであろうが何であろうが、タフさへの願望は絶対にある。それは少年の時に一番大きくあるのだろうが、少年の心を忘れずにそのまま持ってきてしまったようなアホな大人の探偵にも、1つの矜持として体の中心にどすんと居座っているのだ。純粋さとタフネス。それは男が生きていくために必ず所持しなくてはならない重要なものなのだ。そこが結構色濃く出ているのが、ハードボイルド小説に出てくる探偵さんなのだ。

だから、次のようなセリフには当然の帰結になってしまうのだ。

「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなにやさしくなれるの」

 彼女は信じられないように訊ねた。

「しっかりしていなかったら、生きていけない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」

プレイバック レイモンド・チャンドラー

そう、別にカッコつけているわけでもないのだ。ハードボイルド小説の探偵にはタフこそが当たり前のように、生きるための重要な要素なのだ。優しさなど、その次の資格なのだ(これには、多分、多くの異論ありだな)。

正義

原尞のハードボイルド小説の探偵沢崎がこんなことを言っている場面がある。

「あなたはこの世に正義というものが存在すると思ってらっしゃる?」

「すいません。何が存在するかと訊いたんです?」その馬鹿げた質問、あるいは人を馬鹿にしたような質問は聞こえていた。

「正義ですわ」彼女は怯まずに繰りかえした。

質問が馬鹿げているという意見は撤回する。私には彼女の真意がわからないだけのことだった。

「存在しないでしょう」と、私は答えた。

「ほら、あなたは嘘をついているわ」

彼女のタバコの煙が私の鼻先へ漂ってきた。タバコではなく、香料の独特の匂いがした。

「正義があると信じたい人がいれば、その人のそういう心が存在すると言えるでしょう。それ以外にこの世の中に正義の名で呼べるものは存在しない。私自身は正義があると信じたい人間ではない。嘘はついていませんよ」

「では、あなたは何故探偵をしてらっしゃるの」

「仕事だからです。食うための」

「こんどは本当に嘘だわ・・・・でしょう?」

さらば長き眠り 原尞

探偵沢崎は自分を悪く見せるのが好きなのか、ひねくれ者なのか、痩せ我慢か、こういうところが逆に素敵なのである。多分、沢崎は言葉とは裏腹に正義感が強い。映画や小説に出てくる探偵と自分をごっちゃにしてはいけないと言うが、正義感が確実にその内面深くにあるのだ。そこで、ハードボイルドの心に必要なものは、多分人には見せてはいけないであろう正義感なんだな。それは、間違いないはずだ。

ちなみに、逢坂剛の小説で「禿鷹の夜」がある。この血も涙もひとかけらの正義もない非情の刑事悪徳刑事である禿富鷹秋にも、本当に正義はなかったのだろうか。やはり、彼なりの正義の基準みたいなものがあったような気がする。

この「禿鷹シリーズ」はかなりあるので、是非読んでもらいたいと思う。ワルの観点からの痛快な警察もののハードボイルド小説である。とにかく、展開が読めない位にスピーディーに話が進む。

また、次の記事では、この悪徳刑事関係を書いてみたいとも思っている。

禿鷹の夜 (日本語) 単行本 – 2000/5/10
神宮署の刑事・禿富鷹秋、通称禿鷹。信じるものは拳とカネ、ヤクザも泣かす無頼漢。しかし、恋人を奪った南米マフィアは許せない。悪党は地獄に堕ちろ! 史上最悪の「放し飼い」刑事の痛快無比な活躍を描いた警察小説。

優しさ

ハードボイルド小説の主人公達はほとんどが、世間からはちょっとはみ出した男や負け犬たちです。そうした男たちが精一杯の痩せ我慢をするから、小説が面白いし、彼が魅力的に映る。心根の中にある優しさを見せないために、痩せ我慢をする。それが、とてつもなく素敵だ。たった一人で闘っているのに、皮肉の一つも言って強がりを言う。

こんな男って、古いですか?いいじゃないですか。優等生ではなく、アウトサイダー。ひねくれ者。欠点だらけの男。

だからこそ、彼らの別れ際のスマートさや潔さに、逆に、彼らのハードボイルドな優しさを感じてしまいます。

自分との約束

ハードボイルド小説の探偵は、どれだけ酒に溺れていようが警察や依頼者とケンカしようが、彼の中にある自分自身に課した約束を忠実に守り通すというところがある。これこそが、実は、ハードボイルドの一番の心、基本的な基本ではないだろうか。

だから、フィリップ・マーロウにしても、沢崎にしても、どんなお偉いさんがいても、どれだけお金が積もろうが、関係ない。全く動じないのだ。周りに。それは、自分の中にあるこだわりを守る、持ち続けるというスタンスが出来上がっているからだ。自分なりのルールだ。それ以上でも、それ以下でもない。そのルールを徹底的に守り通す。それが、正義なのか、優しさなのか、タフさなのかは分からない。単純に誰にも媚びないということだけかもしれない。それは読む人が主人公をみて感じて、決めることだ。

あなたにとってのハードボイルドって何だろうか?あなたの生涯守らなくてはならないこだわりやルールって何だろうか?そういうものを持っている人は、きっと、ハードボイルドな生き方をしているんだろうね。

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